著者のWebメディアからの転載記事です。
(著者:黒田悠介さんからの承諾はいただいております)
概要
自分がディスカッションを仕事にし始めたころは、シンプルな法則に沿って議論すればカンタンに価値提供できると思っていました。
その法則は、相手の「理想」と「現実」に「ギャップ」を見つけて、そのギャップを埋める「選択肢」をいくつか出してそこから選んで「行動」に移してもらう、というものです。
でも、それから5年が経ち、やればやるほどそれだけじゃ足りないことがわかってきました。一歩進んだと思ったら2歩先に自分の足りないものが見えて、そこにたどり着くころには4歩先に新しいハードルが見えてくる。
そんなふうに、自分の議論のパフォーマンスが上達するスピードよりも早く、議論の奥深さや難しさが見えてきました。それと反対に、5年前の自分は自分の議論のスキルを高く見積もっていたように思います。
実はこの「知れば知るほど無知を知る」状況は、この記事のタイトルで紹介しているある認知バイアスと関係があります。
その認知バイアスの名前はダニング・クルーガー効果です。ダニングさんとクルーガーさんのリサーチから名付けられた認知バイアスです。カンタンに言えば
パフォーマンスが低い人ほどスキルを過大評価する
ということです。逆にパフォーマンスが高い人ほどスキルを過小評価する、というバイアスでもあります。
パフォーマンスが低いときには、その全体像が見えていないものです。その貧しい知識のなかでは、自分にどんなスキルが足りないかということもわからない。だから、自分のパフォーマンスを自己評価すると「そこそこできてるじゃないか」となってしまう、ということ。
これは実験するまでもなく、いろんな人が経験知として知っていて、語ってきたものでもあります。古くはアリストテレスの無知の知。
くわえてダーウィンも「無知は知識よりも自信を生み出す」なんてことを言っています。確かにね。
シェイクスピアの戯曲でも「愚か者は自身を賢者だと思い込むが、賢者は自身が愚か者であることを知っている」という一節があるそうです。
わたしたちは、正しい知識を持っていないときに自身を過大評価してしまうダニング・クルーガー効果という認知バイアスにかかりやすい。
だから、「自分のパフォーマンスに自信がある」かつ「その評価が自分だけの主観的なものである」ときには、このバイアスを疑ってみるといいんじゃないかなと思っています。
もちろん、バイアスは必要から生まれた場合もあるので、ダニング・クルーガー効果は絶対にダメ、というわけではないと思います。でも、バイアスによって取るべき行動(パフォーマンスを高めるためのスキル習得など)が取れないことはもったいないと思うので、バイアスについて知っておくだけでもそれを避けられる可能性があがると思い、書いてみました!